2012年4月21日土曜日

講演録


(英国での苦労:安全基準)
 一つは、これはイギリスの問題というよりも、我々の方の問題なんですけど、日本で実際に使っていたオリジナルの設備をそのまま英国に持っていったということで、イギリス、というかEU圏ではCEマーキングというものを表示する義務があります。特に設備については、その設備が、設備の周りで働くオペレーターに対して、絶対的に安全であるということを保証しなければいけない。どうあれば、安全であるかという規制というか法律があるんです。それに適合しないと設備を使ってオペレーションしてはならない、という規制があります。日本の安全基準とCEマークというか欧州の要求している安全基準とではかなり違います。日本だと、人が� �をつければ何とかなるよというようなところも「絶対安全」、故意に手を入れようとしても手が入らないとか、無理に手を入れると機械が止まってしまうとか、そのような機械の構造やシステムになっていないと使えない。事前にそういうことがわかりまして、日本を出す前に絶対安全を確保するための設備の改善ということをやりました。日本では考えられないようなことをやらなければいけませんでした。

(英国での苦労:電圧)
 また、電圧も日本は100vまたは200vを使っています。日本で使っていたものをそのままそっくり持っていくことで、英国では240vが通常の商用電源になっていましたので、そのギャップをどうするかということでしたが、工場に一つ大きなトランスをつけまして、そこから100vと200vを引っ張って運営していくということをしました。


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(英国での苦労:設備部品の手当)
 それから、機械部品がすべて日本製なんです。それで、行くときにかなりのスペアパーツを持っていきました。しかし、中から1個使い、2個使いしているうちにどんどんなくなっていきます。スペアパーツを買おうとすると日本製は、UKで買うと高いんです。同じような仕様のものをUK製とかヨーロッパ内で作っているものを買うと2~3割安く買える。ですけども、残念ながら、たまに合わない。やはり、日本製の同じものじゃないといけない、ということで高い部品を使わなくちゃ行けない。ところがまた、ときどき、UKでは手配できないことがある。それで日本から持ってこなければならない、ということでスペアパーツでは、大変苦労しております。
 あと、設備その� �のがオリジナルな設備で、ハンドメイドのロジック回路で動いております。 これが非常に難解でして、日本人の設備担当の者でもそれをちゃんと理解するのに、かなり時間がかかります。イギリスの設備の担当の者も、日本へ実習へ出したりしたんですけど、かなり苦しんでます。そういう汎用性のない機械を持っていったということが、非常に苦労のネタの一つになっております。

(英国での苦労:人の管理(1)権限委譲)
 それから、皆さん、一番聞きたいところなんじゃないかと思うんですけど、マン・マネージメント、人の管理についてです。やはり、大英帝国なものですから、非常に、皆さんプライドが高いところがあります。ある程度、製造のマネージャーにしても権限等を委譲してあげないとなりません。しかし、マグネトロンの製造ということ自体、新しく入ってきたイギリス人マネージャーにとっても初めての仕事です。しかし、やはり権限は委譲しなければならない。けれども仕事は、一年生ということで、かなりのバックアップ、任せながら、後をちゃんと処理していくということをやらなきゃならないということで、非常に大変でした。


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(英国での苦労:人の管理(2)マイペースとスタンドバック)
 それから、「マイペースとスタンドバック」。これはちょっと変な言葉かなあと思うんですけども、イギリス人の方は非常に実直なんですけども、反面マイペースです。これが私のやり方と決めるとなかなか日本流に働いてくれない、「私はこうやる。これが正しいんだ。」というところがありまして、非常に人の動かし方が難しいところがあります。どうしても日本人というのは気が短いですね。何とかして早くやりたいということで、マイペースなのを見ているとイライラしてくる。それで「俺がやってやるよ。」とぱっぱっとやってしまう。教えてやろうと思ってやってるんですけども、彼らは「じゃあ、やるならやってごらん」という感じで、後ろに下� ��って見てるんですね。「見てるんじゃない、私が教えるんだから、ここに来て見なさい。」と言うんですが、どうしても、何か後ろに下がってみる、スタンドバックするというような傾向がちょっとあるようです。

(英国での苦労:人の管理(3)責任転嫁の言辞)
 それから責任転嫁の言辞、これはちょっと変な言い方ですが、非を認めないというか、いろいろ問題もあります。失敗もします。そうすると、「この失敗はこうこうこうでこう失敗した。必ずしも私の責任ではない」とすぐ言います。誰かにこの部品を注文しとけと言ったとします。それが期日どおりに入ってこない、「何でだ。」というと、「私はちゃんと注文書を出しました。ところが、注文書を出した先の人間がちゃんと期日通りに品物を入れなかったんだ。だから、私の責任じゃない。」というような言い方をよくします。その辺が日本人としては、まだるっこいなあとは思うんですけど、気長にやるしかないなと思います。


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(英国での苦労:人の管理(4)頻繁な転職)
 それから優秀な人ほど転職が頻繁である。実は、設備の担当で日本へ実習に出した優秀な人がおりまして、東芝ホクト電子の難解な設備を自由自在にオペレーションするぐらいまで育ってくれた人がいたんですけれども、やっと一人前になったなあと思ったら、よその会社に行っちゃいました。次に入ってきた新人の技術者がなかなか育たないということで、今、苦労しています。この辺が、非常にドライなんですね。やはり、給料が良くて、生活条件が良ければ、自分が大事ですから、自分の一番いいところに行きたいということで、すぐに転職してしまいます。

(英国での苦労:人の管理(5)縦割り社会)
 縦割り社会。設備を保守する部隊と製造する部隊とあるんですけど、日本ですと製造部隊と設備の部隊というのは、横でどこでもつながっているんですけど、完全に縦割りに分かれてまして、これは設備の問題、これは製造の問題というようなことをやっています。今、これを何とか融合させようとしています。

(英国での苦労:人の管理(6)設備技術者の不足)
 工場運営としては、東芝ホクト電子から持っていった設備が非常に老朽化しておりまして、ちょこちょこ止まると、そういったことに困っています。また、難解なロジックコントロール(PLC)を扱える技術者が不足している。

(英国での苦労:人の管理(7)時間外勤務)
 残業ですとか、休日というのが勤務時間以外に稼働するのがボランティア制のようになっています。日本だと、「残業するよ、君、頼むよ、絶対出てね」と言われるとなかなかいやといえないんですけど、イギリスの人は非常にドライで「残業頼むよ」「いや、今日は家でパーティがあるから。さよなら。」という感じなんです。休日も予定があるからだめ、予定がなくて暇だからしょうがない、出ようかなという感じで、休日ですとか、残業に参加してくれてます。もうちょっと数が伸びて土曜も日曜もなくフル操業したいなという時はジレンマがあるかも知れませんが、そういったような問題もあります。


(英国での苦労:人の管理(8)フリートイレタイム)
 それから、フリートイレタイム。日本ですと、だいたい休憩時間にトイレに行きますよね。普通、仕事しているときには、なかなかトイレには行かないもんだと思います。ところが、私の工場だけなのかも知れませんが、そういう協定になっていて、いつでも自由な時間にトイレに行くことができます。休憩時間というのは休憩をするための時間で、トイレに行くための時間ではないという感覚です。勤務時間中にトイレに行くと、ラインは動いていますので、トイレに行かれるとラインが止まってしまいます。それでどうするかというと、そのトイレに行く人のところに入る代わりの人がどうしても必要になります。一人、人数が増えてしまいます。その辺が日本と人� ��の人数を割り当てる上で非常に難しいところがあります。

(英国での苦労:人の管理(9)病欠容認制度)
 あと、病欠容認制度。よく、日本でも月曜病というのがあります。何となく月曜には行きたくないなあ、という。たぶん、組合との協定だと思うんですけど、電話一本で、休むことができます。例えば、病気ですと、医者の診断書を出さないと休めないんですけど、連続して3日以内の休みでしたら「今日、ちょっと頭痛いんで。」というとちゃんと休むことができます。休みを取る権利が与えられているんです。そのために、良くちょこちょこ休みます。電話一本で「今日ちょっと具合悪い。」と休みますから、非常に出勤率が低いのが問題です。それで、常に代替要員を抱えていないと、ラインが止まってしまうというようなことがあります。

(英国での苦労:人の管理(10)期日どおりに行かない)
 その他に、なかなか期日どおりに物事が運ばないということがあります。任せちゃうんですね。細かなフォローができない。


(英国での苦労:人の管理(11)コンサルタント依存に注意)
 それからコンサルタント依存に要注意と書いたんですが、先ほど、設備のCEマークという話がありました。私たちもイギリスの国の安全基準の要求というのがどうなっているのか、よくわからないんですね。それで、いろいろ本を買って調べたりしましたが、よくわからないと。それで、イギリス人に聞くと、現地の私どもの工場の人たちもよくわからないと言います。じゃあ、どうするかというと、すぐコンサルタントに依頼します。コンサルタントにどうしたらいいと聞くんです。イギリス人は意外と自分がわかっていることは、すぐこうしよう、ああしようとか言ってくれるんですけど、技術的なこととか、先ほどのCEマークのことですとか、また、� ��の他のことについても、自分たちの知識がないことは、すぐコンサルタントに頼もうとします。頼むのはいいんですけど、これがべらぼうに高いんです。あっという間に何千ポンド(1ポンドは約200円)というお金が取られてしまいます。彼らに権限を委譲していると、どんどんコンサルタントに頼んで、こうだったっていう立派なレポートを持ってきます。ですけれども、自分たちでやるようにしないと大変なことになります。



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