2012年4月30日月曜日



こうした現在の小学校とは別に、ポーテージと他の2ケ所(デスメットとスーフォールズ)で、資料館として保存されている1880年代以前の小学校を見ることができた。いずれも1教室しかない粗末な木造で、全学年一括の複式授業だったという。星条旗、リンカーンの肖像、アメリカの地図、賞状、ボロボロの教科書、手洗いの水盤などが、いかにも昔風である。私は、アメリカの古い町には、たいていこうした歴史資料館のようなものがあるのではないかと思った。

百数十年前の開拓民時代、困窮の中にあってなお希望に燃えて働き、助け合い、夢を実現してきた歴史を振り返ることは、今日のアメリカ人にとって、そのアイデンティティを確立する上で、重要な働きをしているのではないだろ うか。

(2)非行少年のための教護院(私立、10-18歳の男子55名収容、パートを含む教職員40名。SD)

スーフォールズ郊外にあり、農作業や馬の飼育などをしながら更生を目指している。夏休み中で数名を残して帰宅させているとのことで、宿舎はがらんとしていた。以下職員の話。

「ここには塀はなく、しょっちゅう逃亡したり、暴力を振るう者は入れていない。(より程度の重い少年のための刑務所のようなものは別にある。)非行を犯した者、家庭に恵まれないもの、学校に行かない者などのため、そのレベルに合ったところから勉強させている。ここに来る少年たちは普通の「罰」は全て経験済なので、同じことをやっても全く通用しない。いかにしてやる気を起こさせるか、いかにして自立させ、正常な人間関 係を結べるようにさせるか、ということに重点を置いている。
1人1人にやるべき仕事(chorse)を与え、よい事をしたら「特典」を与えるなどをしてほめてやる。毎週金曜日に3ドル50セントを与え、どのように使うか考えさせる。スポーツなど、どこのチームにも入れてもらえなかった少年たちなので、公共施設の使い方も兼ねて町のスポーツ施設も利用している。ここに入る少年には、まず自分の州の旗の前で写真を撮ってもらう。その時はやせて小さかったのに、ここで十分な食事をし、規則正しい生活をすると、数ヶ月後には全く別人のようになってくる。この施設のために基金をつくってくれた人たちが財政面を支えている。食費については州の補助をいただいている。」


 

(3)知恵遅れの大人のための施設(私 立、275人収容、パートを含む職員240名。SD)

玄関に「スーフォールズ障害者職業学校」の標札。中に入ると沢山の男女がいて、ブラインド用のひもや物を乗せる台のようなものを作ったり、古紙をリサイクルのため分類したりしていた。製造のための機械も、収容者の能力を考え、扱いやすく単純作業になるよう工夫されていた。ここで働いた分については賃金を出しているとのことだった。

ダウン症候群の人が多いようだ。人なつこく話しかけてくる人もいた。また、言語障害もあって全く話のできない人もおり、その人たちは絵文字のついた板のような補助具を使い、どれかの絵の部分を押すと、例えば「仕事が終りました」などと音声が出るようになっていた。

食堂(写真)では収容者にも配膳の作業をさせていた。日本ではこういう知恵遅れの大人たちはどこで何をし ているのだろうか。

(4)貧しい人々に食事を提供する施設(私立。スーフォールズ。SD)

入口にBanquetと表示されている。厨房、食堂、集会室などがあり、中高生のボランティアを含む30名くらいが働いていた。食事は毎日ではなく、週3、4回だという。私たちが4時頃着いた時には、すでに20人ぐらいが5時半からの食事を待っていた。ここの施設の精神は「貧しい人に恵みを施す」というものではなく、「人を招いて共にごちそうにあずかる」ということで、来てくれた人々とのコミュニケーションを大切にしているということだった。入れ代わり立ち代わり150人くらいは釆ただろうか。小さな子どもたちも親に連れられて来ていたが、その子どもたちはここに来た時だけ牛乳を飲んでいるのだという。私も一緒に食事を して、折り紙で飛行機を作ったりして遊んでやった。いかにも貧しい身なりや日に焼けた顔の人々を見て、この人たちは一体どこからやってきたのだろうか、と不思議に思った。159の団体、教会が財政面を支えているとのことだった。

(5)性の問題で悩んでいる女性のための無料相談所(私立、クリントン、IA)

Crisis(危機)と表示。電話受付もあり、一人の専従を除いて、24時間体制でボランティアの人たちが担当している。妊娠についての模型、ビデオ、書籍、パンフレット、ベビー服等が分類されていた。「今年はすでに600人が相談に来た。妊娠したかどうかの検査も無料でやっているが、去年は30%が妊娠だった。家を出された娘さんも来るが親代わりになって面倒をみている。子供の欲しい夫婦も多いので、赤ちゃんを里親に預けることもしている。これまで12歳から54歳まで妊娠の例があった。

ここは説教をする場所ではないので、最終的にどうするかは本人の意志にまかせることになる。こうした施設はアメリカ全土に3,000個所もある。学校でも性教育をやっているが、アメリカでは毎年100万人のティーンエイジャーが妊娠しており、� ��の人たちを含めて150万人が堕胎している。性を遊びと考える風潮が最大の問題である。

こうした説明を受けた後、次のような問答があった。


極度の衝撃アメリカ

 間1.日本では高校生が妊娠と分ったら即刻退学となるか、アメリカではどうか。
 答 「学校ではシャットアウトはしない。出産後1週間経てば出校することができるようになっている。元の学校に戻りたくなければ、そうした生徒のための特別の学校もある。」

 問2.生みの親が、里親から子どもを取り戻したい、ということはないか。
 答 「法的にはできない。時々写真や手紙をもらうことならできる。私の19歳の養女は何でもオープンに話をしているが、どこに本当の親がいるかとは聞かない。ただ親が自分を生んでくれたことに感謝している。教会では『神様があなたを誕生させました。たとえ今、一時的に親子が離れていても、永遠の命� ��あずかることによって、必ず会うことができます。』 と教えている。」

(6)家のない人のための福祉施設(私立。クリントン。IA)


道路に面した部分が礼拝堂、食堂、売店、裏が宿泊施設となっている。ここに寄附する人は多いらしく、入口に「食料は十分間に合っています」の張り紙があった。(写真は施設の一部)

以下牧師の話。

「私はアメリカ・プロ野球の選手として、全国を回っていた。ここクリントンに来たとき、結婚相手を見つけた。野球をやめ、勉強して牧師の資格を取った。「よき羊飼い」という名の教会を開拓した。ホームレスのため寄附を募っていたが、1987年この建物を与えられ、本格的な活動に入った。ここではホームレスのために家を探してやること、友人のない人のために友人を� ��望みを失くした人に望みを与える働きをしている。

人口1万5千人以上の都市にはホームレスが存在すると思ってよい。アイオワ州には99の都市があるが、1万4千人はホームレスである。全米では1千万人がホームレスであると言われている。これは国会でも取り上げられているが、宗教者として深い関心を持たざるを得ない。」

(7)YWCA(私立。スーフォールズ。SD)

体育館、プール(写真)、託児所、プレスクールなどを併設。女性のための様々なプロジェクト、低収入者のための相談、給料の不均衡、難民の問題、女性のアル中、麻薬の問題等に取り組んでいる。

以上(1)を除いてすべて私立の施設であったが、他に次のような所も見学した。

(8)サウスダコタ・アート・ミウジアム(ブ� �ッキング市の美術館。SD)

大草原を背景に開拓民時代の生活を措いたハーヴィ・ダン(Harvey Dunn1884-1952)の絵を中心に展示。布やレースを巧みに使ったクラシックな服飾品なども。

(9)クリントン救急医療センター(クリントン。IA)

交通事故や災害に備えた施設。中規模の病院といぅた感じだが、中はがらんとして治療中の人はいないようだった。救急車は無線による医者の指示で注射、電気ショックなどの蘇生術ができる。

(10)音楽博物館(バーミリオン。SD)
 
中世〜近代までの楽器を中心とした展示資料鋸。ハープシコード、バイオリン、リュート、ストラディバリの作ったギター、様々な管楽器、打楽器、世界中の民族楽器など2,500点以上、他に図書、レコード、写真、事件記録などもある。これだけの博物館がサウスダコタ州立大学の一施設だという。

右写真はハープシコードの 演奏を聴く一行。

(11)ロックアンドダム(Lock&Dam クリントン。IA)
 

              
ミシシッピー川の中洲と岸を繋ぐダム。ダムの水門で水位を調整して船を通過させるのを見た。(写真)

(12)大学・高校(校舎内に入ることはできなかったが)

マンケイトー州立大学(ミネソタ州立大学機構)。マンケイトーは人口4万。ここに5千人の大学生が住んでいる。学生のためのアパート群、何棟もの校舎、1万人収容のフットボール場。地方都市の地方大学ではあるが、あまりに広大なキャンパスに目をみはった。

 スーフォールズで建築中の高校を見た。校門から校舎まで150m程あり、駐車場になっている。サウスダコタ州では高校生の半数は自分の車で通学しているとのことであっ� �。車の免許は14歳からで、高校1年の1学期間は正課としてドライブマナーを教えているという(ちなみに選挙権は18歳から)。

(13)カウンティフェア

郡(カウンティ)の博覧会。内容・規模とも「秋田県種苗交換会」に似ているものをスーフォールズで、ずっと規模の小さいものをガーデンシティで見物した。「4Hクラブ」が健在であった。

(14)アマナ(Amana 手作り観光村。IA)


道路を挟んで数十軒のしゃれた家が並んでいるが、大半は手工芸品の店で工房を兼ねたところもあった。レース、キルト、人形、蝋細工、陶芸、金工、木工品などを扱っている店が多い。今回の旅行中で訪れた唯一の観光地であり、また唯一「日本人観光客」に出会った場所でもあった。

 2.ローラゆかりの地を訪 ねて


パイングローブ、 PAはどのような郡である

ローラ・インガルス・ワイルダー(Laura Ingalls Wilder1867-1957)はテレビドラマ『大草原の小さな家』の原作者である。彼女が書き残した自叙伝風物語(日記、書簡集を含む)は11冊に及び、幾つかの言語に翻訳され、今もって多くの読者を獲得している。そして中西部各州にまたがってローラの父母が結婚した家、移り住んだ家などが記念館や資料館として残され、人々を惹きつけている。このうち、私たちが訪ねたのは次の2地点である。

(1) ウォールナットグローブ(Walnut Grove.MN)

(2) デスメット (De Smet. SD)

『大草原の小さな町』デスメット。ここにはローラの父母が最後に住んだ家がある。もう1軒、少し離れたところに一時的に住んだという家もあり、いずれも記念館として当時の家具調度をそのまま保存している。(なお、ローラについて紹介した本に『大草原の小さな家……ローラのふるさとを訪れて』求龍堂がある。写真資料も多く、興味のある方にお勧めしたい。)

 3.ホームステイとそこでの会話

ホームステイとは家族の一員として迎え、迎えられるという滞在方式で、原則として無料である。たまに留学生などのトラブルを開くが、「金を取っているのに家族の一員として扱われなかった」と言ったようなもので、ホームステイの精神からは遠いとしなければなるまい。

私がホーム� �テイした家庭の共通項は、中高年の夫婦で、子供が成人し独立していることである。滞在した順に簡略に述べると、
@ ゴルドン・リーダンツ夫妻、元軍人、電気会社を退職。60歳台。
A ゲージーバトラ一夫妻、農業、70歳台。
B ローランド・ベッカー夫妻、スーフォールズの副教育長、50歳台。
C オービル・E・バイケマ夫妻、商業(菓子販売)、50歳台。

 私たちは、朝食後、夕食後、あるいは友人の家を訪ねて、実に様々なことを話し合った。以下メモをもとに、ごくわずかだが紹介したい。

(1)生徒の指導(@に滞在中別の家で)

日本の学校での躾は厳しいか、などと開かれたので、昨今の校則問題や校門圧死事件などを話した。あまりに画一的なきまりに対しては「それで社会常識を教えたことになるのか」との指摘があった。一方アメリカでは、例えば禁煙教育をしているのに煙草の宣伝のついたTシャツを着てくる者がいて困っているとのこと。麻薬も問題で、そこの息子の話では、麻薬を手に入れるルートは、第1に親から、第2は学校の友人からで、それらしい友人4、5人に声をかけるだけで簡単に手に� �るという。

(2)離婚率(Aの家で)

アメリカでの離婚率は50%に達している。日本ではどうか、と聞かれた。よく分らないが10%以下だろうと答える。なぜ離婚が多いかを聞くと、お互いによく知らないうちに結婚する、忍耐強くなく、ちょっとしたトラブルで別れたりする、との答。ここの家でとっている地方紙に、結婚したばかりのカップルの写真と略歴、婚約したカップルの写真と略歴が、見開き2ページに渡って各20組程載っていた。月に1、2度こういう特集が組まれるとのこと。必ず添い遂げるように、との願いが込められているのだろうか。

(3)教師の勤務時間(Bの家で)

「公立高校の教員の勤務時間は8時から2時40分までの6時間40分で、これは組合との話し合いで決まった(もちろん土日は休み� ��。その後は大半の教師は帰宅するが、フットボール、バスケットボール、語学クラブ、ドラマクラブなどがあり、これらを指導すれば手当がもらえるようになっている。」

(4)インディアン

(サウスダコタの地図を出して。全州の約10%にインディアン居住区の印がついている。)「居住区にインディアン以外は住めない。彼らは大変貧しい。時間の観念に乏しく、アル中の率も高い。従って仕事にも就けない。」

(5)難民

「スーフォールズ市では、この1年でロシア、カンボジア、ベトナムなどから150人の難民を受け入れてきた。来年は100人のベトナム難民を受け入れる予定である。昨年夏、教会でエチオピアからの難民3人を親身になって世話をしたが、3ケ月後ワシントン州へ行ったきり、返事もなくが� ��かりしていた。」

(6)老後

「サラリーの5%を年金のために当てている。いよいよとなったら老人ホームへ行くと思う。有料・無料の様々なホームがある。妻の母が癌のときは、自宅ですごした最後の4ケ月をホスピスの人に来ていただいた。」

(7)物価(Cの家で)

「牛肉1ポンド6ドル(100g240円)、ガソリン1ガロン1ドル20セント(1リットル48円いずれも当時のレート1ドル150円として換算)自分の家(8部屋)は1964年に1万5千ドル(225万円)で建てた。今なら5万ドルもするだろう。しかし、もしカルフォルニアで同じ家を建てるとしたらそのまた10倍はするだろう。なお、公立高校の授業料は無料である。」

(8)教育


人々が見に来ているアイオワ州の主要な魅力は何ですか

日米の学校の違いについて話が出たので、日本の子供達がどのように教育され、どのような問題が生じているか、など説明を試みたが、相手によく伝わらなかった。しかし、伝えようとした熱意だけは伝わったようで、数ヶ月後、ここの主人からクリスマスカードと共に新聞の切り抜きが送られてきたのである。本稿の最後にその前半部分の縮小コピーを載せたので見ていただきたい。日太とアメリカでは「あたりまえ」としていることが大きく違うのである。言葉の問題があるにしても、どこか話がかみ合わないと感じたのも無理はないような気がする。

 4.選択の自由
 
食事のこと� �らはじめよう。朝食は何種類かのシリアル、トースト、丸パンなどの他、ハム、生野菜、ミルク、ジュースなどが一般的で、自分で選び取って食べる。ティー・オア・コーヒー?などと必ず勧められるので、どれかを決める。昼食、夕食は様々な施設を訪問した際、よくご馳走になったが、いわゆるバイキング方式が多く(この方式のレストランもあった)、皿の上に何をどれだけ取りよせるか自分の意志を働かせなければならない。

ホストファミリーとの自由時間なども、どこそこに行きたいか、ショッピングがいいか、それとも家でお話をしたいか…と選択を迫られる。アメリカの印象は? 日本ではどうか? あなたの考えは? との質問もたびたびであった。施設では一通りの説明の後、必ず「何か質問はありませんか」と� �かれたものである。(もちろん、必ず誰かが質問した。)こうしてみると、アメリカにいる間中、何度となく問いかけられ、選択を迫られていたし、それに対して意志表示をし続けてきたのだとも言えるのである。

街で見かけた母親に連れられた5、6歳の女の子は耳にピアスをしていた。ファッションに限らず、一般の商品どれを取り上げても、その色、形、デザイン、機能など実にバラエティに富んでいる。ある家を訪問した時、CATV(有線テレビ)を見せてもらったが、リモコンのボタンを押すと32チャンネルの全画面が次々に映し出された。アメリカでは、選択の自由があること、選択肢(物や情報)の豊富であることが「善」なのである(と、ものの本には書いてあった)。アメリカ人のライフスタイルが一見、多種多様� �見えても、こうした「自由」が脅かされると感じた時、彼らは一致して祖国を守ろうとするのではないだろうか。

アメリカは自由を求めてやって来た人たちの国である(と言えば原住民を除外することになるが)。元々多様な人々の集まりであるから、互いの自由や権利を認め合いつつ、それぞれの長所を取り入れ、助け合いながら今日のアメリカを築いてきたのだと言えるだろう。今回の訪米で認識を新たにしたのは、寄附行為やボランティア活動の盛んなこと、世界中の難民を可能な限り受け入れようとしていることであった。

 5.アメリカ人への質問

先に述べたように、アメリカは自由の国である。「甘え」を許さない競争社会でもある。人々は他からの干渉を排し、自分で考え、決断し、� �動する。子どもたちはそのように躾られ、女性たちはウーマンリブを主張する……。しかし、日本人の感覚からすると、これはかなり「きつい」のではないだろうか? また一方で、自由をもてあまし、はき違える者が常に再生産されることはないのか? 誰もが「自分の権利」を言い出せば、その結果はどうなるのか? こうした疑問をもっていた私は、出発前にアンケート用紙を10枚ばかり用意したのである。アメリカでは時間のゆとりがなく4人の方々からしか解答を得られなかったが、その内容から学ぶべき点は多かった。その中から、3番目のホストファミリーに書いていただいたものを紹介しよう。(英文は割合。)

問1.あなたは子どもにどのような大人になってほしいですか。そのために、どのような躾をしていますか

答1.私は子どもたちに、強い自意識と人々に対する思いやりのある、信念を持った人になってほしいと思っています。良い生活ができるように、働くための技能を身につけるように、よく用いられるように、決断力のあるように、と願っています。これらの目標を達成するために、子どもたちは愛情に満たされ、常にベストを尽すように育てられる必要があります。両親はその期待するところを定め、子どもたちに明示しなければなりません。家庭には寛容の雰囲気が必要です。親は独立心が形成されるよう勇気づけるべきです。私たちの諺に、良い家庭は子どもに根を与え、さらには翼をも与える、というのがあり� �す。

問2・アメリカの十代の若者について、長所および短所と思われる点をあげて下さい。又、そのことについて、あなたはどのように考えますか。


答2.長所:アメリカの十代はエネルギッシュで、なまけ者ではありません。目標が理にかなっていると思えば、それを目指そうとします。彼らは人々に豊かな感受性を示し、機会を生かそうとします。アメリカ中西部では、十代の人たちは善悪をわきまえる正しい価値観を持っています。
  
短所:アメリカの十代はますます享楽的になり、物質的なものが彼らの心をとらえています。自分たちのことにより多く興味をもち、他の人々への奉仕については関心が少ないのです。彼らは仲間意識の影響を強く受けており、そのことで深刻な問題を惹起すことがあります。十代の若者にとってこの仲間意識は、親を満足させること以上に重要なことなのです。
 ◎アメリカの十代は楽 しく活動していると思います。私は彼等を頼もしく思っています。

間3.アメリカは自由主義の国ですので、だれもが自分の好きなように生きる権利を持っているように思います。しかし、人々がそうした生き方をすることで問題が起きることはないでしょうか。特に若い人々の間ではどうですか。青少年の非行についてはどうお考えですか。

答3.自由は責任と共にあります。もし私たちが責任ということを教え損なうなら、自由は財産や人々、そして自分自身に対してすら無礼なものとなります。自由主義国家に生きるにはしっかりした社会意識を持っていなければなりません。個人的自由を追求することで、他人の自由や権利を侵害するようなことがあってはならないのです。非行は強い家族の絆が欠乏し、他人 への、法律への、市民的責任への無関心があるときに起ります。

 アメリカは近年、麻薬やアルコールの乱用と戦っています。私たちは若者に、試し飲みの危険性と、アルコールはもちろん麻薬の乱用が深刻な問題となっていることを教えています。犯罪の多くは麻薬とアルコールの乱用に関わっています。

問4.あなたは日本の学校教育について何か知っていますか。もし少しでも知っていたら、そのことについてお知らせ下さい。

答4.日本の教育についてはよく知っております。私の個人的見解は読書から得たものです。
  1.日本の小中学生は非常によく勉強している。
  2.大人になってからの成功は、有名大学に入ることに相当依存している。
  3.日本の教育課程はアメリカよりも緻密であ� ��。
  4.日本の教育システムは、子どもたちに強いプレッシャーをかけている。それは健康的ではない。
  5.子どもたちは事柄を記憶(丸暗記)するために多大の時間を費やしている。問題解決のための知的道具として情報を利用することを、彼らは教えられていない。


 
6.アメリカ人が見た日本の教育

私が旅行を終えた後、ある滞在先から新聞の切り抜きが送られてきた。今回の旅行がなければ入手できなかったものであるし、私にとって関心のある内容であったので最後に少しだけ言及したい。

この記事はアイオワ州の地方紙「デモイン」の日曜版に載ったもので、デモイン市の教師ローズマリー・ダウニングさんが、同市の姉妹都市、山梨県甲府市の教師交換計画の最初の一人として、1年間甲府商業高校ですごした経験から、日本の学校教育についてレポートしたものである。こうした記事を読んで、あるいは私たちのような旅行者の言動によって、一般のアメリカ人の日本人観といったものが形成されていくのだろう。

 内容についてごく簡略に紹介しよう。

「日本の学校の七驚異」(平穏無事だが創造的学習意欲 は欠乏、との副題)とは次の如くである。

(1) 生徒は教師を尊敬し、その教えをよく守っている。生徒は制服を着、アクセサリーをつけず、化粧もマニキュアもパーマもしない。デート、車の運転、アルバイトもしない。

(2) 授業日課が容易に変更される。それは、生徒が一日中クラス単位で学んでいるため可能である。

(3) 学校行事が多い。新入生歓迎会、予餞会、PTA、学校祭、校歌練習、定期考査、全校マラソン‥‥‥

(4) 授業が途中で中断されることがない。生徒の呼び出しもない。昼食は全校一斉に食べる。

(5) 日本の教師は、アメリカの教師の勤務時間の短いこと、夏休みが12週間もあること、1クラスの生徒が25人であることをうらやましがった。

(6) 日本の生徒は信頼� �きる。放課後、校内を清掃する。修学旅行に同行したが頗る行儀がよかった。

(7) 生徒は授業中質問しない。目立つことを恐れ、非常に恥かしがる。生徒が理解できない場合、それは誰の責任だろうか。アメリカでは教師の、日本では生徒の責任とされる。

R・ダウニングさんは記事の後半(本文では割愛)で「互いの長所のブレンドを」と題して次のようなことも述べている。

「アメリカの十代に与えられた自由は、彼らに独立心をもたらしている。この自由こそ人類を月に送り、様々な分野で独創的な頭脳を生み出し続ける源泉なのである。日本の十代は保護されている。それは彼らに平穏無事な生活をもたらしている。しかし、保護のし過ぎは自立を遅らせ、若者を単なる傍観者にしてしまう。過度の自由は放� �となるが、過保護は専制支配となるだろう。アメリカの子どもたちにはもっと保護を、日本の子どもたちにはもっと自由を与えるべきである。」

                             *


アメリカと日本では、何でも反対にする、人々の考え方も違う、それが文化というものである、と言われることがある。では「日本独特の民主主義」だとか「子どもに人権は無用」といった精神風土もまた「文化」なのだろうか。私には日本の社会の「後進性」そのもののように思われてならない。民主主義は、どんな小さな地域社会にあっても民主主義でなければならず、人権は国境を越えて人権でなければならないのだと私は思う。
 
今回のアメリカ行きを通して、「日本人」というものを外側から眺め得たことは大きな収穫であった。
これからもこうした視点を大切にしていきたいと思っている。 (1991.2.1)

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